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メディカルな誘惑!医療器具展2


医療器具、好きですか?

好きと答えた方は、どんなところに魅力を感じますか? あるいは、内科や外科等の分野によって主要なものが一変する医学・医療において、どの分野の主要器具が好きですか?

医学・医療の歴史について考える際、身体(とりわけ「神秘」や「自然」と結び付けられる生物学的な「女性」)の謎を、男性的な「知」によって解き明かすそうとする「欲望」や、近代化に伴う国民衛生の啓蒙・啓発としての展覧会(ただし、多くの観客はフリーキーな見世物として楽しんできた)という2つの軸が見据えられます。

前者はルドミラ・ジョーダノヴァ『セクシュアル・ヴィジョン――近代医学におけるジェンダー図像学』(邦訳、2001、白水社)、後者はアラン・コルヴァン、ジョルジュ・ヴィガレロ監『身体の歴史III ――20世紀 まなざしの変容』(邦訳、2010、藤原書店)、国内外の衛生博覧会に言及した、荒俣宏『衛生博覧会を求めて』(文庫版、2011、角川書店)、田中聡『衛星展覧会の欲望』(1994、青弓社)等で詳しく言及されるほか、絵画的な図版に変わって、医学的資料で重要な役割を担うようになった写真(症例等の記録写真に限らず、X線レントゲン写真等)も、メディカル・フェティッシュの文脈では重要な位置を占めているのですが、医療器具とは異なる方向に展開していくので、その辺りについてはまたなんらかの機会に。

昨年夏に大きな話題を呼んだ医療器具展の続編が、11月22日までギャラリー新宿座で開催されました。
ギャラリー入り口から見て左側のフロアは昨年同様暗い部屋になっており、懐中電灯で照らしながら展示物を鑑賞するというのは前回同様ですが、今回は受付で懐中電灯は手渡されず、幕を開けてすぐ右手の椅子に陳列された懐中電灯を任意で手にして鑑賞する、という形態になっています。

「医療器具展2」レポート!

前回の医療器具展は取材ではなく個人として訪問しておりまして、1年振りに会う器具たち(特に模型類)もいれば、初めましてな物も多々ありました。その中でざっと、筆者が気になったアイテムたちを紹介していきたいと思います。

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まず、twitterに上げられている来場者の写真(医療器具展2は、どちらの部屋も写真撮影可能)でよく目にした、吊られた赤ちゃん。臍の緒が巻き付いた赤ちゃんの模型とのことで、付近に置かれた別の模型と比べると顔がやや青くなっております。

次に「Resusci Bany」という、赤ちゃんの蘇生や人工呼吸(?)の練習用と思しき模型。模型の近くに説明書も添えられ、どのような用途であるかを詳細に知る事ができました。
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この組み立て説明図が、また何とも猟奇的な雰囲気を醸しだします。
こういった説明図ひとつを見ても、制作側は知識伝達のため、真面目に記しているにもかかわらず、猟奇的かつグロテスクなものに見えてしまうのが、身体を取り扱う医学・医療の不可避な足枷、とでもいいましょうか。世界各地を巡回している「人体の不思議展」も、人体の内部という神秘を知る機会である一方、グロテスクなものと対峙するお化け屋敷的な要素、それこそ、かつての衛生博覧会とまったく同じ図式を含んでいますが、医療器具展では標本やエンバーミングされた献体等はなく、器具に焦点が当てられた展示なので、グロテスクな要素は非常に少ない……と思います。

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前回と異なるポイント

前回と比べて変わった点といえば、新品の医療器具(廃業した病院から各種消耗品を買い上げる業者経由で仕入れたという話を、取材時に新宿座CEO木村さんからお聞きした記憶があります)が多くなったり、前回はあまり見た記憶の無い歯科関連の器具が、明るい部屋の展示で増えていたことでしょうか。ちなみに、前回はどちらの部屋も薄暗い照明になっておりました。

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上の3枚は昨年の医療器具展の様子ですが、今回は臓器模型単体ではなく、人体部分に組み込まれた状態での展示が多かったのも印象的でした。多くの模型は医学教育用に制作されているので、各臓器に名称を示すラベルが貼られており、解説を担当してくれるAKINOさん曰く「木製で比較的最近のもの」とのこと。

木製という点で引っかかったのが、ほぼ同様の意図を持った解剖学用の模型といえば、亀津菜穂子 編・佐藤明 写真『バロック・アナトミア』(トレヴィル、1994=河出書房、2005)や、タッシェンの700頁厚い本ことEncyclopedia Anatomica (2004)でお馴染みの17世紀・18世紀頃に制作された解剖学用の蝋人形(ヴィーナスについては『セクシュアル・ヴィジョン』でも言及される)のことが思いだされた点です。今では博物館に収蔵されている芸術品としての蝋人形ではなく、木製という辺りに製品的な要素を感じとったのかも。

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こちらは1850年に制作された、分娩補助具。器具の上には当時の医学書に収録された、使用例の図版が展示販売されております。

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胎児の頭部を優しく包んで、難産な分娩を手助けする器具らしいのですが、ほぼ同じように、胎児の頭をきつく拘束する堕胎用の器具と、その使用例を記した図版(ほぼ同時期にもの)を『セクシュアル・ヴィジョン』で見た覚えがあるなと思いだし。

女性の下半身のトルソー?

14 15 今回最も心を揺さぶられたのが、上図の器具。一見すると何の器具かわからないのですが、様々な角度で観察してみたり、赤ちゃんを逆さ吊りにしている紐の出所をよくよく観察すると、それが女性器であることがわかります。脚部を切断され、脊椎が剥き出しになった下半身のトルソー(!)という、これまた猟奇的なオブジェであることに気づかされます。

AKINOさんによれば、そこそこ古い時代の、分娩シミュレーション装置とのこと。確かに、最低限の部分で構築した、極めて実践的な器具でありながら、魔術的な技を駆使し、自身も生物学的な女性の身体を知っている産婆(時代によっては魔女とも見なされた)とは異なり、(名目上)医学的な見地に基づいて、「男性」に生物学的な女性の身体構造を教えるための器具だったのか、と専門のひとつとしてジェンダー論を修めている身としては、アレコレと考えてしまったり。

色々な現代的器具類

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縫合用の糸。皮膚に近ければ近いほど白く細く、体内に近ければ近いほど、色が濃いそうです。自身は縫合を伴う手術経験がないので、初めて目にしました。

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右側中央部は医療用ホッチキス(ステプラー)。縫合を前提にした規則的な切開ではなく、不意の事故等の乱雑な裂傷で大活躍。

実は、ステプラーは筆者もお世話になっておりました。

日帰り滝修行の後、拠点となっていた宿の風呂場でずっこけ、左手で窓ガラスをぶち抜いてしまい、救急外来で運びこまれた先で、麻酔なしでステプラーでバッチンバッチンとされた過去が…。
基本的に使い捨てなので、展示品は袋に入ったままの状態。
ステプラーの下にある細長いものは、腹腔鏡下手術等で用いられる大型の機械(医師による遠隔操作)の先端部に取り付ける特殊鉗子(メス、ピンセット等として機能)とのこと。
モノだけみても何に使うのか全くわからないので、AKINOさんが在廊されている時に積極的に質問させていただいたところ、展示がより一層楽しめました。

【開催概要 ※イベントは終了しています】

『医療器具展2』
●会期:2015年11月10日(火)~11月22日(日)※16日休
●時間:12:00~20:00(最終日のみ17:00)
●入場料:¥1000
●内容:医療器具・模型の展示

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鈴木真吾

鈴木真吾

学習院大学大学院身体表象文化学専攻博士後期課程在籍中。文化社会学、ジェンダー論を専門にする傍ら、多方面に研究領域を拡大中。研究と並行して、サークルC-ROCKWORKを率いつつ、同人誌製作(編集・DTP)やイベント出展、写真撮影&展示、各種媒体への寄稿等で活動中。レトロ、猟奇、アングラ、サブカル、キッチュ、フリンジ、B級・Z級などを愛好。
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