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特殊モデル×女体愛好家――『七菜乃による七菜乃展』レポート


P1010157 「私にとって、ヌードは着衣のひとつです」――特殊モデルとして、また女体愛好家として活躍される七菜乃さん。清冽でありながら、確かな存在を感じさせる彼女の肉体美に、目を奪われたことのある人は多いのではないでしょうか。
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10月22日から25日までの4日間、渋谷アツコバルーにて個展『七菜乃による七菜乃展』が開催されました。「特殊モデルの七菜乃を、女体愛好家の七菜乃が撮る」という試みによって開かれたこの個展、なんとギャラリーの白い壁に展示されているのはすべてインスタントカメラ・チェキによる七菜乃さんの「自撮り」。それも、すべてヌードです。小さな枠のなかに収められた女体、女体、女体……しかし、不思議となまなましい、セクシュアルな印象は受けません。そこにあるのは決して見る人間をたじろがせることのない、ただそこにあるだけで強い美しさを放つ「女体」なのです。しかし、この清潔な美しさはどこからくるものなのでしょうか?

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七菜乃さん手書きのキャプションです。

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チェキの多重露光モードを使って撮影されています。

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「男性の消費物ではないヌード」

最近では「女性(の身体)は、男性に消費されるためのものだけではない」という言説が強まってきていて、女性が自分の身体をどう見られたいのか/見せるかを選択できる時期に入ったように感じます。今回の個展でも、ギャラリーからの紹介文には「男性の消費物ではないヌード、自分が大好きな女体をチェキで自撮り。」という言葉が含まれていました。
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「私は『女性のすべての身体は、絶対的に美しい』のだと思っています。たとえば富士山を見て美しいと感じるように、自然のものって圧倒的にきれいじゃないですか。女性の身体も本来は自然のつくりだしたものなので、『エロ』として消費されてしまうだけじゃなくてもいいんじゃないかなと思います。ただそういう見方を否定するわけではなくて、私がどう考えるかが自由なように、見てくれる人がどう感じるかも自由なわけです。私の『裸の身体』がどういうふうに見えるか、というのが見る人の『裸の目』であって、身体と同じように、その人によって感じ方が全然違うのが面白いですね」
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「ヌードは着衣」体験

今回の個展で話題を呼んだのは、七菜乃さんの言「ヌードは着衣」を体験できるという撮影コーナー。お客さんの中から有志を募り、「女体愛好家」の七菜乃さんがヌード写真を撮るというものですが、撮影の条件は「女体をお持ちの方」。加えて、「男性は応相談」とあります。七菜乃さんのように普段から人前に出たり、身体を見せたりということをしている方が多いのかと思いきや、意外にも体験者のほとんどが「人に裸を撮られるのは初めて」だったそうです。

「ヌードは着衣」が体験できた撮影ブース。

「ヌードは着衣」が体験できた撮影ブース。

「ヌードは初めてという方がほとんどだったのに、みなさん全然脱ぐことを恥ずかしがらないんですよ。撮影して、その場でチェキから出てきた写真を確認するときも、裸であることを忘れたようにはしゃいでいる。私は特殊モデルとして撮られているときは、『その人が撮りたいものを自分が提供する』ということが自分の中で大事になってくるので、『撮られていて楽しい』とかの気持ちは一切ないんですね。できあがったものを見て『ああ、こんな格好いい作品に参加できてよかったな』っていうことはあっても、『撮られたい』っていう願望はなくて。だから今回、自分の中になかった感覚を持つ人と触れ合えたのはすごくいい経験だなと思います。
女体愛好家としての私も、自分を撮るときはすごく冷静に『こういうふうに撮ろう』と考えながら撮影をしているんです。でもこうして他の人を撮るとなると、やっぱり自分は女体愛好家なので、そこに女体があるだけでもう『すばらしい!!』と思ってしまう。ファインダー越しに見ているだけで大満足で、こんなに自分の欲求を満たしてしまっていいのかー!みたいな(笑)気分でした」

「特殊モデル」としての七菜乃さんのストイシズムと、「女体愛好家」としての七菜乃さんが注ぐ、あらゆる女体に対する愛情。この二つの要素、あるいは「二人の七菜乃さん」のカップリングが、『七菜乃による七菜乃展』を作り出しているのだと強く感じました。

皮膚を着る、空気を纏う

私たちは普段、自分というものを表現するために、衣服を選択し、身に纏います。どういうふうに見られたいか、どういうふうに見せたいか……しかし衣服を着ない、ということは、その選択をしないということ。では裸になったとき人は自分をどう表現するのか? 七菜乃さんは、「動きや表情も『衣服』のひとつ」であると教えてくれました。
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「ヌードは皮膚を『着て』いるのだと思いますが、動きや表情も同じことなんですね。立ち方や座り方、表情なんかを見れば、『こういうふうに撮られたいのかな』っていうのも解ってしまう。すごくキュートな服装なんだけど、脱いだら表情がセクシー、みたいな方もいて。同じ人なのに、裸体の表情と衣服を着た表情が全然違うっていうのもおもしろかったですね。着る服を『選ぶ』からそれは表現になるのだと思いますが、そうした要素も意識の差はあるにしろ選び取っているわけで、動きも表情も含めて、その人が纏っている空気そのものが、表現なんだと思います」

女の子ではない、「女体をお持ちの方」

そして筆者が個人的に、七菜乃さんの「女体愛好家」としての精髄と感じたのは、彼女がこの「ヌードは着衣」体験の撮影条件に「女体をお持ちの方」という表現をされていたことでした。

人間の性別は『男性』と『女性』だけで分けられるものじゃなくて、すべての人間が違った性別を持っているんだと思っています。ただ『身体』としたら、特殊なケースを除いて『男の身体』か『女の身体』かしかないじゃないですか。なのでここでも、差別にならないように、『女体をお持ちの方』という表現にさせていただきました。自分は『女体が好き』とは公言しているけど、『女の子が好き』というわけではないんですね。人間はみんな違うので、『女の子』ってなんなんだろう?という感じがして。身体は、見たら判ります。条件に『女体をお持ちの方』、それから『応相談』としたのは、たとえば身体とセクシュアリティが一致しない人がいるように、見て判らない部分は話を聞いてみないと判断できないから、ということなんです。」

七菜乃さんは「女体を持っていること」「女性であること」、そして「(いわゆる)女性性を持っていること」を、完全に分けて考えているのだということを、彼女のこの言葉で強く実感しました。このような認識を持つということ、そしてその認識を確固たるものとして持ち続けるということは、おそろしく重要でありながら、おそろしく難しいことでもあります。だからこそ、七菜乃さんのつくる/写す「女体」はこんなにも清白で美しく、強い光を放って私たちの目を釘付けにするのです。
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七菜乃さんといえば「特殊モデル」、だけど「女体愛好家」でもあるんだっけ……そんな認識を驚くべき強度で覆してくれるのが、この『七菜乃による七菜乃展』でした。「特殊モデル」の七菜乃さんと、「女体愛好家」の七菜乃さん。ふたりの「七菜乃」さんの共同作業に敬服しつつ、今後の活躍に期待が高まります。

七菜乃さん(アツコバルーにて)

七菜乃さん(アツコバルーにて)

イベント概要(終了)

『七菜乃による七菜乃展』
会期:2015年10月22日(木)~10月25日(日)
(14:00-21:00)
場所:アツコバルー(http://l-amusee.com/atsukobarouh/
入場料:500円(ワンドリンク込)
(詳細はこちら

七菜乃さんオフィシャルブログ(http://www.diamondblog.jp/official/nana7nano/
Twitter(@nana7nano

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尊厳

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フードプレイが趣味の文学部生です。谷崎潤一郎と、食事の仕方がきれいな人、きれいなお菓子をぐちゃぐちゃにするのが好きです。
遊んだ食べ物は残さず食べるのを信条にしています。
twitter:@songen_sugoi
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