2015年のかなまら祭は御輿の出発前から雨天な上、昨年以上の大混雑で境内に入れず。
御輿の出発後に悪天候に見舞われた2014年。境内の人混みも、まだ比較的余裕が。
2006年。ここ数年の混み具合との差が……。
フェチ東京でも既にリポート記事が掲載された「かなまら祭」(神奈川県川崎市、毎年4月の第1日曜日)。twitterのRTで現地実況を目にした方も多くいると思います。
かなまら祭はどうしてもインパクトばかりが先行し、男性器を象ったお神輿を見ることが主目的化しており、会場である金山神社やかなまら祭の歴史に目が向けられる事は少ないくありません。
そこで今回(と次回)では、歴史・地理・陽物崇拝といった観点から、かなまら祭を論じていきたいと思います。
快晴の2010年
世界では有名、でも近隣ではマイナー
さて、かなまら祭りですが、「ウタマロ・フェスティバル」として世界的に有名であるにも関わらず、川崎市はおろか、近隣住民でも知らない人が多いというお祭りでもあります(男根をあしらったお神輿は、その形状からテレビで放送し辛いでしょうし)。
筆者の生まれと育ちは多摩川を挟んだ川崎の向かい側、セガの本社、羽田空港、即売会の会場でお馴染み東京流通センター(TRC)が名所である大田区で、JR川崎駅や川崎大師の方面も幼少期から良く訪れていたのですが、かなまら祭の存在を知ったのは、2012年のこと。
その年の3月、かなまら祭りと同じように男根型のお神輿で知られる田縣神社の「豊年祭」(愛知県犬山市、毎年3月15日)を見るべく、愛知へ赴きました。
豊年祭にて初めての奇祭体験
豊年祭の様子(wikipediaより引用)
ネットで知り合った友人の実家が名鉄沿線とのことで、待ち合わせはお馴染みのナナちゃん人形の股の下。
名鉄名古屋駅から名鉄小牧線に乗り、田縣神社前駅で下車。駅前では「さずかり飴」(こちらもかなまら祭りでお馴染み)が売っており、駅を後にして田んぼや住宅地が点在する界隈を徒歩5分ほど歩くと、田縣神社に到着。
田舎道というか、都市郊外を歩いた先にある神社に男根の御輿(かなまら祭りでは天を突くように上向きですが、こちらは新潟の「ほだれ祭」と同じく水平)がどっしり飾られている光景は、さながら「奇祭」というより「秘祭」といった雰囲気でありました。
日帰りで東京に戻り、「性(奇)祭」について調べていると、新潟の「ほだれ祭」(毎年3月の第2日曜日)と、川崎の「かなまら祭」の存在を知りました。
「4月の第1日曜日! これは行ける。しかも川崎!!!!! 乗り換えは多いけど、電車で30分程度の場所で奇祭が見られるなんて!!! 日帰りで名古屋まで行ったのに!!」と悔やんだのも束の間、2012年に初めてかなまら祭りを見に行きました。
毎年巡礼ツアーを組み、祭りを見た後は蒲田の古い酒場(祖父の代から三代に渡って行きつけという……)で飲むというのを数年前まで続けておりましたが、ここ最近は少人数で訪問し、混雑も年々激しくなってきたので早目に引き上げることも多くなりました。
昨年は秋葉原のイベント等で暗躍中のマスクメイド(@MaskMaid)と職業怪人カメレオール(@chamereoru)と共に訪問し、今年はかなまら祭の存在は知っていたが、見に行くのは初めてという友人と見に行きました。
そんな調子で、数えるとはや13年……。2011年は震災後で御輿は自粛と聞いたので見送りましたが、10回以上もかなまら祭を見てきました。
2000年代前半に比べると、毎年の人出は倍々に増えていくような印象があり、悪天候にもかかわらず、今年は境内に入場規制がかかるほどの大混雑でした。
交通の利便性の高い都市型奇祭
豊年祭の詳細、特に名古屋駅からの経路について書いた詳細に書いた背景には、かなまら祭の特殊性を強調する意図があります。タイトルにもあるように、かなまら祭は「都市型」の奇祭でもあります。
会場となるのは、川崎大師の周辺。路線では、京急大師線(京急川崎駅から大師線に乗り換えて数駅)。京急といえば羽田空港と品川を結ぶ経路でもあり、道中にはJR線と東急線まで徒歩1kmほどの京急蒲田駅があります。
金山神社までは京急川崎大師駅降りて徒歩数分。
アフターの予定に迷ったら、駅前の観光案内所に相談。
ご存じのように、羽田空港は2010年10月より国際線が運行されており、かなまら祭(ウタマロ・フェスティバル)を主目的に日本を訪れる外国人観光客のアクセスを助けています。
以前から外国人観光客は数多くいたのですが、2010年以降は急激にその数が増えた印象があるほか、数年前には北欧や南半球から観光客が訪れているという境内アナウンスを聞いた憶えがあります。
中部セントレア空港から田県神社へのアクセスとしては、名古屋鉄道ミュースカイを利用して最速28分で名古屋駅に着いた後、徒歩で名鉄名古屋まで歩いて名鉄犬山線に乗車して約1時間。
羽田空港国際線ターミナルから京急級川崎駅までは、各駅停車でも約30分。京急川崎から大師線に乗り換えて約10分程度(かなまら祭当日は、外国人観光客が車内を埋め尽くしているので迷う心配はなし)というアクセスの利便性や、駅を降りて徒歩数分で会場である金山神社に着けることも、国内外を問わず、観光客の増加を後押ししているといえるでしょう。
2010年に話題をさらった「バットマン」&境内で注目を集めていたドーラーさん。デパートメントHを彷彿とさせるファッションの人も時折見かけたり……。後半で少し触れますが、来年は「はっちゃけ」に対して少々厳しい注意喚起が行われるかと。
陽物崇拝とかなまら御輿
2008年のエリザベス。
修繕(?)でツヤツヤになった2010年。
悪天候に備えて天蓋が導入された2015年。
かなまら祭りの名前を知らずとも、ピンク色の男根を象った御輿の画像に見覚えのある方は多いと思います。ピンク色の御輿は「エリザベス御輿」という名称で、ニューハーフが担ぐ御輿と紹介されることもありますが、担ぎ手は女装(あるいはトランス・ヴェスタイト/クロス・ドレッサー)者の皆さんです。
かなまら祭に出奔する御輿は、木彫りの船御輿、鉄製のかなまら御輿、エリザベス御輿の総計3基ですが、エリザベス以外の2体は屋根が備え付けられています。
エリザベス以外の近くまで行かければ男根の形状がわかり辛いので、遠目からでも天にそそり立つ男根が視認できるエリザベス御輿(悪天候を考慮して、2015年は天蓋風の屋根が登場)は、もっともフォトジェニックといえるでしょう。
かなまら船御輿
かなまら大御輿(紀伊國屋御輿とアナウンスされることもある)
エリザベス御輿(いずれも2006年)
かなまら祭の歴史について述べることは、川崎の歴史を振り返ることでもあります。川崎の持つ鉄鋼業の町という側面が「かなまら祭」の「かな(鉄)」に繋がる一方、「まら(男根)」のは、かつては東海道の宿場町であった川崎の歴史と結びついています。
かなまら祭の発祥は、東海道の川崎宿場町の「飯盛り女」(売春婦)たちが、商売繁盛と梅毒除けを祈願し、金山神社内に茣蓙式(ござしき)を敷き、境内に備え付けられた陽物の御神体を使って卑猥なしぐさをして遊んだことが発祥といわれています。
御輿が出発した後、男根を象った大根の制作が始まる。御輿が帰還した後に始まる「地べた祭り」で恒例のオークションにかけられる(2014年)。
陽物(男根)を象った神像はいわゆる「道祖神」であり、陽物の崇拝は日本に限らず、古代ローマ帝国第23代皇帝ヘリオガバルス(エラガバルス)が陽物を象った石をフェティッシュとして掲げようとしたことで知られているように、古くから(言い換えれば偶像崇拝の禁止や一神教の主義が覇権的になる以前の)人類に根付いた信仰形態であるといえるでしょう。
日本における道祖神の広まりについては、「道祖神の分布は、東は神奈川の境川、群馬、栃木県境の渡良瀬川、北は信濃川南岸、西は天竜川と南アルプスに限られている。いずれにせよ、由来は明らかではない。」(市川茂高、1997、『日本人は性をどう考えてきたか』、農産漁村文化協会、173頁)という指摘がありますが、奈良の「飛鳥坐神社」、和歌山の「歓喜神社」、佐賀の「鏡山道祖神」などがありますが、性祭として広く知られているものは、筆者の知る限りでは、かなまら祭りや豊年祭(愛知)のほかに、どんつく祭り(静岡)、ほだれ祭り(新潟)があります。
また、市川は『母権と父権の文化史』(1993、農産漁村文化協会)において、ファロス(象徴、観念的な男根で、生物学的な男根である「ペニス」と区別される)信仰を「権威型」、「生殖型」、「オルギア型」に分類しています。
(2007年)
「権威型」は魔除け、護身、権力の象徴であり、「生殖型」は豊穣祈願で、性行と妊娠の関係が判明した時代以降においては生殖祈願と関連づけられています。そして「オルギア型」は乱交の象徴であり、ローマ神話の「バッカス」にあるギリシャ神話のディオニュソス(陶酔、酩酊を司る神)に関連した祭りなどに結び付けられています。
また、古代の日本で発掘された陽物型の石は権威型と指摘されており、安産、子孫繁栄、夫婦円満に加え90年代からはエイズ除けなどの御利益があるとされる現在のかなまら祭は、市川の指摘に基づいて分析するならば、「権威型」と「生殖型」のハイブリッドと言えるでしょう。
(2007年)
後半では、僅かな言及に留まった川崎の歴史や、かなまら祭りの発展と、明治政府からの弾圧を経た復活、エリザベス会館との協力関係や、筆者が現場で感じてきた、かなま祭りのここ10年の変化について論じて行きます。

鈴木真吾
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