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ある猟奇趣味者の素性から――Feti.Tokyoの寄稿陣と鈴木真吾について


Feti.Tokyoでの記念すべき最初の記事(筆降ろし!)では簡単な自己紹介を兼ねて、鈴木が主な専門として扱っているテーマと主たる活動について、研究や同人活動を中心に書かせて頂きました。

 

今回は、色々と縁のあるFeti.Tokyoの寄稿陣を引き合いに出しつつ、研究ではなく現場あるいはシーンの活動について紹介してこうと思います。

 

紫護縄びんごさんと鈴木

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01……背徳22人展、鈴木の展示ブース。

まずは、2015年3月2日時点で人気記事の1位と3位にある「緊縛とは”対話”である – 風俗未経験者が歌舞伎町の緊縛バーに行ってきた」にも登場するSMバー初心と紫護縄びんごさんについて。

 

「倒錯展」(2015年2月8日―22日、新宿座)にも参加されていたびんごさんとは、2014年に11月に同じく新宿座で催された「『背徳』22人展」でご一緒したのが始まりです。

 

毒蟲等のイベントで見慣れていたステージ上での緊縛ではなく、「緊縛写真」や高低差のない空間での緊縛を拝見し、数年前から緊縛を習いたいと思っていた自分の秘めたる欲望を再活性化させたのはもとより、びんごさんの写真に切り取られた縄と女体(びんごさん曰く、ボディラインを美しく見せるのが美学であり、お尻が好き)の抒情性と、写真に写った縄目の美しさ……いわば実在する身体につけられた痕跡(インデックス)に魅了され、自身の写真作品に緊縛を活かしたいと思い、初心の講習会の詳細を直接聞き(リポートがあったり、HPに詳細書いてあっても、なかなか踏み出せないものですよね)、2015年の1月から、びんごさんの下で緊縛を習っております。

 

緊縛をテーマにした記事で追々触れていきますが、びんごさんは「緊縛」を江戸時代までの「捕縛術」と「現代緊縛」に分けて語られます。前者は罪人を拘束し、苦痛を与えるものなので身体への影響は重要な考慮事項ではないが、後者はプレイやショーやアートと多岐にわたる一方、緊縛はなんらかの怪我を負うリスクを避けられないので、常にリスク回避や安全性を考える必要があるという座学(初心縄基礎講座)での教えが印象深くもあり、ここでひとつ強調しておきたいのは緊縛は勿論「SM」を構成する要素のひとつですが、それは「捕縛術」的な拷問や辱めではなく、誇張的な演出や没入を含んだプレイ(遊戯・演技)である点です。

一例をあげれば、マゾヒズムの嚆矢であるマゾッホの『毛皮のヴィーナス』では、主人公ゼヴェーリンと女主人ワンダの間に、ワンダの思うままにゼヴェーリンを使役して構わないという旨を記した契約書(白紙委任状)に書名するまでは実際のSM的行為が描かれることはありません。この点も、互いの同意に基づいた共犯的遊戯としてSMが成立するという点を示唆していますが、サディズムの語源になったサド公爵の思想は極めて、システマティックかつ政治的なマゾッホのそれとは対極で、ある種のアナキズム(サドのそれは自由主義とも言えます)なので、「S」と「M」の語源であるからといって、その両者の思想がコインの裏表というわけではありません。その辺りについても、今後の記事でご紹介していきます。

 

加虐/被虐という関係性から、性暴力と誤解されやすい「SM」ではありますが、大抵の場合は互いの同意や信頼関係に基づくプレイであり、〈商業作品〉として流通する写真や映像はプレイ裏側ともいうべき緩やかな関係性を包み隠し、わかりやすい「SM」象に期待される暴力的な関係性が誇張された表象(representation)ともいえるでしょう。

 

視聴覚的な刺激として享受した表象をどのように解釈するかは読者・視聴者のジェンダー、セクシュアリティ、セクシュアル・オリエンテーション(性指向)や、「S」と「M」に対する捉え方、あるいは様々なフェチ的な関心に委ねられますが、そこに提示された暴力性は演劇・遊戯的に誇張された、ある種のハイパーリアルであり、信頼関係や相手を気遣う要素が裏に隠れていることを常に意識しておく必要があります。

 

不知火さんと鈴木真吾

 

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02……エロス展、不知火さんのふたなり妖精と。

不知火さんの作品はtwitterのRT等で時折拝見していた記憶がありましたが、直接お会いしたのは2014年6月29日のフェチフェス04、鈴木が主宰を務めるC-ROCK WORKの配置された4Fの部屋の斜め向かいに等身大ふたなりを数点飾られていました。その後、「『背徳』22展」でご一緒し、今年の夏以降に開催される予定のグループ展でもまたご一緒します。

 

フェチフェス04でご一緒して以降、2014年は「『背徳』22人展」のほか、デザインフェスタギャラリーでの個展やアート・コンプレックス・センター・トウキョウ(ACT)でのグループ展、12月にデザインフェスタギャラリーで行われた「エロス展」と、頻繁に等身大ふたなりたちを目にするほか、不知火さんとも「アマゾネス的な腹筋のある女性や、女性ボディビルダーっていいよね!」と飲みの席で盛り上がることがしばしば。

 

鈴木の主観ですが、不知火さんの作品は空山基の描くマスキュラン(男性的)な身体の女性像と重なる部分があります。空山基といえば、メタリックな質感の人型ロボット的な造詣がよく知られているかもしれませんが、アメコミ的なテイストのグラマラスな女性も頻繁に描いています。

 

マスキュランな身体の女性を描く点で両者は共通していますが、不知火さんの等身大ふたなりの興味深い点は、描かれた等身大の人物が「ただ、立っているだけ」であるのと、作品を正面に見て左側に目線を送っていることです(もちろん、ふたなりのアイデンティティである乳房と男性器も)。

 

描かれたふたなりたちは、鑑賞者に目線を向けることはなく、ただそこに立ったまま、彼方をみつめるのみです。目が合わないからこそ、ふたなりたちの身体造詣を隅々まで観察できるのでしょう。

 

ふたなりたちの顔つきは、比較的女性的な造詣が多いですが全体のラインは女性的な流線型からやや男性的な角ばったものまで、作品毎に細かく描きわけられ、腹筋の割れ方や射陰嚢のしわの加減や玉と竿の位置にいたるまで、1人1人に詳細な差異が描き込まれているのが、特に印象深い点でした。

 

文量の関係で触れなれなかった「すいかとまな板」のお二人とも交流がありまして、最初はtwitterですいか担当のぎゅうなさんとtwitterで知り合い、不知火さんも参加していたエロス展で初めて展示を拝見し、鈴木のサークルC-ROCK WORKで参加したコミックマーケット88 の3日目(14年12月30日)の終わり際、お二人がブースに来て頂き、やっと初顔合わせ……でありつつ、新宿座で開催された「倒錯展」でFeti.Tokyoの取材で来ていたぎゅうなさんとお会いしたり、寄稿でサイト上でご一緒することになったりと、妙な縁を感じております。

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03……フェチフェス04、C-ROCK WORKブース。

 

 

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04……フェチフェス04、C-ROCK WORKブース with カメレオール。

 

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05……フェチフェス04,C-ROCK WORKブース展示風景。

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06……縄を使った作例。

 

ひとまず、Feti.Tokyoに馴染み深く、鈴木の記事の初読者の方への自己紹介を兼ねたイントロダクションはこれで終えまして、次回からは前回の記事でご紹介したテーマについて、自身の刊行物や写真作品も交えながらご紹介できればと思っております。

 

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鈴木真吾

鈴木真吾

学習院大学大学院身体表象文化学専攻博士後期課程在籍中。文化社会学、ジェンダー論を専門にする傍ら、多方面に研究領域を拡大中。研究と並行して、サークルC-ROCKWORKを率いつつ、同人誌製作(編集・DTP)やイベント出展、写真撮影&展示、各種媒体への寄稿等で活動中。レトロ、猟奇、アングラ、サブカル、キッチュ、フリンジ、B級・Z級などを愛好。
Twitter:@junk666
mail:doxa666@gmail.com
hp:http://crockwork.hotcom-web.com/wordpress/
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